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22 . November
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28 . May
dreamtribeで公開した小説の原作です。




足下にご注意下さい。



誰だって電車に乗った事はあるよね。

通勤、通学、旅行や遊びに行く時に使う電車。

ねぇ…君。
そう、そこの君だよ。

『足下にご注意下さい』って言葉、よく耳にしない?
駅のホームと電車の間にみぞがあるから落ちないようにっていう意味だと思うでしょう?

でもね、とある場所ではその意味が全く違うんだ。


これは…ある女子高生のお話だよ。









ガタンゴトン、ガタンゴトン…

いつもと変わらない朝の電車通学。
ラッシュがひどい電車から乗り換え、人の少ない車両で紀香は座ることができほっと一安心した。


高校に入学して以来、土日祝日をぬいて毎日これを繰り返している。
はっきり言うと紀香は人ゴミが嫌いだ。そうなると朝の通勤ラッシュも苦手の分類に入ることになる。

密室された箱の中で人間がぎゅうぎゅうになっていると思うだけで酔ってしまう。
それだけではなく中にはタバコくさい人や息の荒い人、音楽を大音量で聴いている人も居るので迷惑極まりないのだ。

ほとんど自分のわがままに過ぎないのだが。
大変なのはみんな一緒なのだからしょうがない。
社会に出てからずっと何十年もこの通勤ラッシュを体験している大人はよく耐えられるなと思った。
電車通学暦二ヶ月でギブアップ間近の紀香とは大違いだ。
あと二年以上もラッシュを繰り返すと思うだけで気が遠くなる。
学校に行くのが楽しみなのが唯一の救いでもあるのだが。


ガタンゴトン、ガタンゴトン…

『次はー……』


ゆりかごのように揺れる車内とこもり気味なアナウンスと共に睡魔が襲ってくる。
重くなるまぶたに抵抗できずにゆらりと眠りに落ちてしまった。




「あ…」

うとうとしていて首がガクンとゆれた瞬間に意識を取り戻す。

停まった駅は知らない名前だった。
降りるはずだった駅を乗り過ごしてしまったのだろう。
あわてて電車から降りて反対側のホームに向かった。

先ほどまで乗っていた電車が発車する。
そこで異変に気付いた。

人が…居ないのだ。
電車を待つ人間は紀香一人だけだった。

「うわ…なんか気味悪い」
キョロキョロしながら小さく呟いてもしんと静まっているせいではっきりと自分の声が聞こえてしまうくらいだった。
○○駅行きは人があまり居ないのだろうか?少しくらいは人間が居てもおかしくないのに。

そうこう考えているうちに電車がやってきた。
車内も誰も居ない…と思ったら、年輩の男が一人腕組みをして座っていた。誰も居ないより誰か一人くらい居てくれたほうがマシだ。紀香は男から少し離れたところに座った。

携帯を見ると8時10分になる。降りるまであと四駅として、学校まで少し歩くとするとギリギリ間に合うだろう。

また寝過ごしたらいけないとあたりの広告を見渡した。
どの広告も『足下にご注意下さい』と書いてある。広告までしなくても分かっていることなのに。そこまで注意されたら逆に鬱陶しいくらいだ。
そう思っていると、同じ車両に居る男とたまたま目が合ってしまった。
すぐに目をそらし、また男を見る。
相変わらず腕組みはしたままで、眉間にシワを寄せているためか怖い印象があった。
男はスーツではなく今どき古い革ジャンを着ていた。鞄も何も持って居ないようだ。
(…こんな朝に場違いな人間もいるんだ)
失礼だかそう思ってしまった。まぁ、二人しかいないのだから場違いではないと思うが。

『◇◇駅ー◇◇駅です』
そして、あっという間に自分が降りる駅に着いた。
先ほどと同じく慌てて降りようとする。

『電車とホームが離れておりますので、足下にご注意下さい』

いつもと何の変わりのないアナウンス。
いつものことのように聞いて受け流していた。
…ちゃんと注意していれば良かったらものを。

「!!?…っいやああああああああああああああああああ!!!」

一瞬の出来事だった。
ホームへまたごうと下を見たら"誰か"が居た。
その間に・・・目があったのだ。
電車とホームの間にぎょろりと剥き出しになっていた目は暗闇の中から私を見ている。
たちまち私は足をつかまれ引きずり落とされた。

体を全部持っていかれそうになるが必死の思いで両腕でホームのはしをつかむ。

しかし引っ張る力の方が強く、だんだんとみぞの底に沈んでいってしまい、もうだめだと思った。

が、


「お嬢ちゃん、しっかりつかまりな!」

寸でのところで、一緒の車両に乗ったいた男に腕をつかまれ引っ張りおこされた。

『ドアが閉まります』

ギリギリだった。
あのまま引きずり落とされたら電車にすりつぶされるところだったのだ。
「大丈夫だったかい?」
紀香を助けた男は、さっきの印象からとは違って優しい表情をする人だった。
荒くなる息で男に礼を言う。

「あ…ありがとうごさいます」
「嬢ちゃんが無事で良かったよ。車掌さんのアナウンスや広告を見なかったのかい?」


足下に十分ご注意下さい


あれはこういう意味だったのか。
しかし、みぞの底にいたのは誰だったのだろう。

「おじさんは…何か知ってるようですね?」
「あぁ。よく、ここで人身事故がおこるんだよ」

男の話によると、新人の車掌が多い四、五月に起きるのだそうだ。
運転手の不注意のせいではないが、人が電車の来る寸前で飛び降り自殺をしたり、誰かに押されて路線に落ちてしまったりして事故が発生するらしい。

それ以来、ここで亡くなった人の怨念からなのか、引きずり落とされてしまう人も出てきた。

三年前にも出かけに行った親子でホームをまたぐときに子供が引きずり落とされたとか。

父親はそれに気付かずかなかった。
電車が発車すればあたりまえのことに子供は死んでしまった。
父親は子供を探しまわっていたが、放送で『青い靴の男の子』と聞いて自分の息子だということが分かった。

子供の人身事故から三年間、この駅には誰も近づかなくなったらしい。


「だから、お嬢ちゃんもこの駅…特にこの六番車両には近づかないことだね」
「…はい。気をつけます」
「一人じゃ危険だ。改札口まで送っていくよ」









「本当に有り難うございました」
「いや良いんだよ。無事でなによりだ」

改札口で男にもう一度礼を言った。
学校はもう遅刻だが、命の恩人にお礼くらいちゃんと言わなければいけない。


「おじさんは、何であの車両に居たんですか?」
「用心棒だよ。またあんなことにならないように…ね。子供の人身事故から三年間事故が起きないのは俺のおかげでもあるかな」

男は冗談めいた笑顔になったあと、首を下げて少し暗くなった。

「なんせ、三年間の事故にあった子供の親というのが…この俺だからね」

そう言う男の口元は、悔やんでいるような言葉とは裏腹に不気味につり上がっていた。




おわり

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のべぷろさん / 2009/11/11(Wed) / URL 編集
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